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路傍の晶

第41回

「描いたスタイル」 FANTASIST 店主 本間さん

本間さん。
自作のドアの前で。
本間さん。
自作のドアの前で。
扉をくぐると、脇に置かれたテーブルには子どもたちが喜びそうなミニカーや絵本の類が無造作に並び、壁には大人の気を引くイラストが飾られている。ちょっとしたアート空間然としたこの店は、じつは美術館ならぬ美容室だ。

「絵を観るのが趣味なんですよ」FANTASISTの本間さんは言う。
「美容師としてまだ駆け出しのころ、勤めていた店のオーナーに絵画や写真などのあらゆる美術鑑賞を勧められました。というのも、美容師は曲がりなりにも美を追求する仕事ですからね。教養や見聞を拡げる必要がある。そのときいろんな美に触れたおかげで、審美眼も培われました」

 秋田出身の彼が美容師を志して上京したのは、高校を卒業してからのことだ。だが当時は、仕事に対する興味よりも東京に抱く憧れのほうが強かったという。「とりあえず美容師になろう。2,3年したら秋田に帰ってもいい」その程度の思いだった。
千川駅前の商店街に建つお店
千川駅前の商店街に建つお店
しかし、美容学校を卒業し、実際に現場に立って経験を積むたび、本間さんはこの世界にどんどんのめり込んでいく。
「ヘアスタイルをつくり上げていく喜びといえばカッコいいんでしょうけど、なにが楽しいって、僕は日々、お客さんと知り合えることに喜びを感じた。大袈裟かもしれませんが、髪を切るということは、そのひとの一ヶ月の人生を預かる行為に等しいと思うんです。髪型が気に食わなければ一ヶ月のあいだ不機嫌に暮らすことになるし、気に入れば楽しく過ごせる。僕らがいい仕事をすればお客さんはまた足を運んでくれて、次第に仲良くなって、そのうち距離も縮んでいく。要するに、友だちが増えていく感覚に近いんですね。だから楽しい。最初は適当な気持ちで始めた美容の仕事に、いつの間にかどっぶり浸かりました」
休日には家族連れやカップルも訪れる
休日には家族連れやカップルも訪れる
実家が美容室を営んでいるという血筋も、向き不向きに関係しているのかもしれない。店を渡り歩いて経験を重ねながら、ついに彼は店長を任されるまでになった。店づくりに自身の考えを反映でき、スタッフの人事も掌握した。ある程度、思いどおりの運営が許されたのである。だが一方で、彼には満足できないことがあった。

「気付いたら、自分は一日じゅうカットしかしてなかったんです。パーマやシャンプー、カラーなどは、若いスタッフを育てるために任せなければならないから。でも僕は、最初から最後まで、すべてを自分の手でやりたかった。せっかく美容師になったのに、ただ切っているだけではつまらない。それで、自分の店を持とうと決めたんです」

 ポリシーを貫いた結果、完全予約制の現在の店が生まれた。利用者とはつねに1対1で向き合い、すべてのケアをひとりで行なう。2000年に開業して以来、一貫して変わらぬそのスタイルは、幼い子どもからお年寄りまで、老若男女を問わず多くの人々の心を捉えた。

「いまは楽しいですよ。毎日のんびり、お客さんを待っています」そう口にしながら、本間さんは柔和な笑みを湛えた。自身が描いた空間を訪れる“友だち”は、この先さらに、増えていくだろう。

取材・文◎隈元大吾

FANTASIST
住所:〒171-0043
豊島区要町3-9-1-102
 
アクセス:東京メトロ千川駅 3番出口より 徒歩2分
 
電話番号:03-3530-0058
営業時間:10:00~20:00(応相談)完全予約制
定休日:火曜